特定秘密保護法:成立の社説
賛否割れた全国紙、地方紙大半は批判
毎日新聞
国の安全保障にかかわる重要な秘密を漏らした公務員らに厳罰を科す特定秘密保護法が今月6日に成立した。
全国紙の5紙は7日の社説で一斉に取り上げ、
このうち3紙は廃止や法改正など抜本的な見直しを求めた。
残る2紙は成立を評価するなど論調は割れた。
一方、6日以降に掲載した地方紙の社説は大半が批判的だった。主な社説の内容を紹介するー。
全国紙5紙のうち、特定秘密保護法の成立を批判した3紙は、毎日、朝日、日本経済。
「情報公開は民主主義の通貨」。
毎日の冒頭は米消費者運動家、ラルフ・ネーダー氏の言葉だ。「民主主義の土台を壊しかねない」法律だと位置づけ、強行採決で法が成立した6日を「民主主義が損なわれた日として記憶にとどめたい」と述べた。
さらに、国家機密を守るには現行法の厳格な運用などで対応可能だとし、廃止や全面的な見直しを求めるとともに、そもそも法律を選挙公約に掲げていなかった点を問題視し、
「来たるべき国政選挙で民意を問うべきだ」と主張した。
朝日は行政機関の長が秘密指定し、国会や裁判所の目が届かないとして、「都合のいい道具を、行政が手に入れた。憲法の根幹である国民主権と三権分立を揺るがす事態だ」と深い憂慮を示した。
「安倍政権がめざす集団的自衛権行使の容認と同様、手続きを省いた『実質改憲』のひとこま」と位置づけ、「『行政府独裁国家』への道をひた走ることになりかねない。(国会が)責任をもって法の廃止をめざすべきだ」と訴える。
日経は、法整備の必要性は認めつつ「法律の内容」「数をたのんで採決に持ち込んだ国会運営の手法」の両方を批判した。参院での法案採決直前に政府が示した「情報保全監察室」などについて、「行政が行政をチェックする仕組みだから機能に限界がある」と指摘。
強い独立性と権限を持つ第三者機関の設置を明文化するなど「法改正も含めた徹底的な見直し」を求めた。
読売と産経は成立を歓迎した。
読売は「日本にもようやく米英など他の先進国並みの機密保全法制が整った」と書き出し「国家安全保障会議(日本版NSC)の情報収集と分析の能力を高めていく上でも、欠かせない制度」と評価した。
法律への反対論について「審議の中で(戦前の)治安維持法になぞらえた批判まで出たのには驚く。
戦後の民主主義国家としての歩みや政治体制、報道姿勢の変化を無視した暴論」と批判した。一方で「審議を通じ国民の不信感が増したことも否めない」とし「政府は運用に十分配慮しなければならない」と注文をつけた。
産経は「日本の平和と安全を維持するために必要な法律の整備は避けて通れない」とする。軍事的な存在感を増す中国や北朝鮮を念頭に「(政府には)侵略に対して国と国民の安全を保障する責任がある」と指摘する。
一方で、第三者機関について「丁寧に説明を重ねるべきだ」としている。
◇「原発情報隠し」懸念
地方紙の大半は批判的だ。
北海道は7日、1面に社説を掲載した。
「戦後の歩みに逆行する転換点になってしまうのではないか。憲法に基づき、平和で民主的な社会をつくろうと丹念に積み上げてきた国民の努力を台無しにする」と強く批判した。
11月25日に福島市で開かれた衆院特別委の地方公聴会では7人全員が反対・慎重な意見を述べたが、翌日法案は衆院を通過した。
福島民報は「(公聴会後も)疑問の多くが解明されず、法案修正にも反映されなかった」としたうえで「原発の安全や事故に関する情報隠しが懸念される」と訴えた。
中日(東京)は、安倍政権が選挙公約ばかりか、計3回にわたる施政方針・所信表明演説でも特定秘密保護法に言及していない点を重視し「約束しなかったことを強行するのは、有権者に対するだまし討ち」と指摘。
そのうえで、政権の狙いが憲法9条改正、国防軍創設にあるとした。
高知も1面で「民主主義の基盤を揺るがす」と断じる。自由や権利は「国民の不断の努力によって」得られるものである--とする憲法12条を引用し「(反対の)意思を表明し続ける必要がある」と呼びかけた。
米軍基地の集中する沖縄県の地元紙の論調も厳しい。琉球新報は「自民党は総選挙と参院選で大勝した。とはいえ、国論を二分する問題まで国民が全権委任したわけではない。首相は速やかに解散し、法の是非をめぐり総選挙で国民に審判を仰ぐべきだ」と主張した。
一方、北国は「特定秘密保護法は不完全な面はあるにせよ、安全保障上、極めて重要な法律。新法を活用して、国益と国民の安全を守りたい」と評価した。
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◇主な新聞各紙の社説の見出し=特定秘密保護法成立(6日)以降
<全国紙>
毎日新聞 7日 民主主義を後退させぬ
朝日新聞 7日 憲法を骨抜きにする愚挙
日本経済新聞 7日 「知る権利」揺るがす秘密保護法成立を憂う
読売新聞 7日 国家安保戦略の深化につなげよ
疑念招かぬよう適切な運用を
産経新聞 7日 適正運用で国の安全保て
知る権利との両立忘れるな
<地方紙>
北海道新聞 7日 憲法を踏みにじる暴挙だ
東奥日報(青森) 8日 民主主義を危うくする
岩手日報 6日 民主主義が壊れ始める
秋田魁新報 7日 “暴走”にブレーキ必要
河北新報(東北) 6日 審議のあり方を問い直せ
山形新聞 7日 数の「横暴」繰り返すな
福島民報 7日 原発の情報隠し許さない
福島民友新聞 8日 数におごる政治は許されぬ
下野新聞(栃木) 10日 こんな法律はいらない
上毛新聞(群馬) 8日 「知る権利」守る運用を
茨城新聞 8日 こんな法律はいらない
神奈川新聞 7日 任務放棄の国会は不要
山梨日日新聞 7日 知る権利への奉仕 なお努力
静岡新聞 6日 国民の不安置き去りだ
中日(東京)新聞 7日 民主主義を取り戻せ
岐阜新聞 8日 こんな欠陥法はいらない
信濃毎日新聞(長野) 8日 安倍政治 軍事優先には「ノー」を
新潟日報 8日 「廃止」が後世への責任だ
京都新聞 7日 国民の「知る権利」手放せぬ
神戸新聞 7日 懸念置き去りの危うい動き
北日本新聞(富山) 7日 採決強行は横暴の極み
福井新聞 7日 知る権利の扉どう開くのか
北国新聞(石川) 7日 懸念払拭に努めてほしい
山陽新聞(岡山) 7日 民意離れた「決める政治」
山陰中央新報(島根、鳥取) 8日 こんな法律はいらない
中国新聞 8日 自由な社会 守れるのか
愛媛新聞 7日 民意無視の国会運営許し難い
徳島新聞 7日 民主社会に禍根を残す
高知新聞 7日 今後を厳しく監視する
西日本新聞(九州) 7日 抜本的な欠陥是正を急げ
宮崎日日新聞 7日 時代の逆行を監視すべきだ
佐賀新聞 7日 官僚の情報支配が進む
熊本日日新聞 8日 「決める政治」とは言えない
長崎新聞 6日 「数の横暴」は許されない
南日本新聞(鹿児島) 8日 運営監視し制度を見直していきたい
沖縄タイムス 7日 おごり極まる強権ぶり
琉球新報(沖縄) 7日 許されぬ権力の暴走
解散し国民の審判仰げ